08:遺された者
王都を後にして2日が経つ。
旅の道中はテントを張って寝泊りしていた。
厳密には大小2つのテントを用意し、女性陣とレクスとで分かれて使用している。
東から清々しい朝日が照らされる頃には、近くの川原でレクスが顔を洗っていた。
「どう?調子は」
レクスの背後からライフが声をかけてくる。
先日貰ったマントの事も含めて経過を知りたいのだろう。
「ほぼ全快だな。足掛け3日になるか…。回復はざっと倍早くなっている計算になるな」
「そう、理論上は3倍だったんだけど…まぁ8年前に考案した品、理論値なんて目安ね」
「どちらにせよ、回復が早まった事は確かだ。面倒が起こっても対処しやすくなる。感謝するぞ」
タオルで顔を拭くレクスの背後で、ライフは微かではあるが目を見開いた。
レクスの事は5年間の修行時代の頃から知っているが、彼が人に礼を言う場面を見たのは初めてだ。
「…私こそ…ありがとう」
「それにしても、ラティアちゃん…どうしたらこうなるの…」
「あはは…」
テントの中ではシスティルがラティアの寝癖に悪戦苦闘していた。
奇妙な角度に複雑に跳ね、頭のボリュームは軽く二回りは膨張している。
単に爆発したような跳ね方よりタチが悪く、もはやブラシで梳くと言うより、ブラシという熊手でペンペン草を掻くイメージに近い。
テントの入口から差し込む光から、修道女姿のフェンが姿を見せる。
「あら、いいわねぇー。姉妹みたいよ?」
聖母のような笑みを見せるフェン。
「そ、そうですか?」
まんざらでもなく頭を掻くラティアだが、掻いた事で漸く整いかけた髪がまた跳ねてしまう。
思わず「あぁ…」と声を漏らすシスティルだが一歩遅かった。
「気を張っていけよ。お前はまだこれからだ」
「大丈夫、分かってる」
レクスの忠告を肝に命じ、テントに向かうライフ。
入れ代わるように、揺れを伴う足音を立てて現れたのはバジルだった。
「えらく抽象的な言い回しだなァ」
「問題無い。あいつは一度冷静になれば随分と聡明だ。世界が注目する錬金術師…いや真理学者か…なるかもしれん」
漸くバジルを見上げると、どうしも彼が担いでいるものに視線が行ってしまう。
「何だそれは」
バジルが担いでいたのは、根っこまで丸々ついたまま地面から引っこ抜いてきた樹だった。
「結構な所帯になってきたからよ、朝飯の用意に薪もこれくらい要るんじゃねえかってなァ」
「何日分の薪だ…元の場所に立てて来い」
画して即座に実行される事になった。
樹を立て直すバジルの背中に若干の哀愁が漂っていたのは余談としておこう。
立て直した樹の根っこをオルの力で補修すると、ジルが姿を見せた。
「何も全部戻さなくてもいいじゃない」
「植物といえど無駄な殺生はするものじゃない。それに…」
突然ジルの首根っこを掴み、テントに戻りだす。
「お前が姿見せたという事は、無駄な殺生をせずに済む自分の役割が漸く分かったようだな」
「ああー!コラ!!あたしを釜戸代わりにすんなって何度言えば!」
「まあ早い話、レクスは『世界と向き合う次の一歩は自分で踏み出せ』って暗に言ってるワケ」
システィルとライフ、そしてラティアが朝食の支度をしながら、今朝レクスと話していた話題に興じていた。
厳密にはシスティルがライフにそれとなく尋ねた事から始まるワケだが…。
「先生の言う事って度々奥深い意味があったりするんですよねぇ…前に「言葉っていう魔法は苦手だ」なんて言ってましたけど、そんな事ないですよ」
「…ラティアと意見が合うなんて珍しいものね」
いつぞレクスがライフを再起させた言葉から、相当にレクスに思いが傾いているのが分かる。
冷静にレクスの腹の内を分析しつつも、いつもより多弁なライフの態度が物語っていた。
「そう…なんだ」
そんなライフの態度も気にはなるが、レクスの行動を思い返すのはシスティルだった。
思えばそんなレクスの行動は、システィルにも思い当たる節はいくつもある。
気難しい顔をして自分から人の輪に入る事はあまり無かった。
それでも周りは何だかんだ言いながらレクスを放っておかなかったのは、無茶苦茶言いながらも困っている人を放っておかなかった所だろう。
幼い当時、よく虐められていた事からだろうか、彼に「今回限りだぞ」等と言われながら何度も助けられてきたものだ。
(そうよ、虐められっ子だったからレクスと接する機会が多かっただけ…。レクスは態度はアレでも本当は皆に手を差し延べるから…)
「あなたは、レクスの何?」
「…え?」
ネガティブ思考に意識を奪われて、ライフの言葉を聞き逃してしまった。
ふと視界の隅に、鋭い何かが縦に横切り、直後まな板を小気味よく叩く音が聞こえた。
視線を落とすと、自分が握る物と違う包丁が、システィルの左手スレスレの位置で、押さえていた鯖の頭を跳ね飛ばし、突き立ったばかりのボウガンの矢のように柄が小刻みに震えていた。
戦慄を覚えたシスティルは悲鳴も漏らさず距離を取ってしまう。
「ああごめん、手が滑ったわ」
淡々と言われても説得力に欠けるのだが…。
とはいえ、わざと…だろうか?
何をしたらそうなるのか、両手とも包丁で傷だらけ。
切っていた野菜は形も大きさもデタラメなのはまだマシな方だ。
何故まな板が6枚に分離しているのだろうか。
「全く、何を遊んでいますの?」
テントの傍に留めてあった馬車の中から聞こえる声に、システィル達が振り向くが、声の主は誰か分かっている。
御者を召使いのように侍らせながら紅茶を嗜んでいるヴァネッサのものに他ならなかった。
「朝食の用意はまだですの?」
家を飛び出してきたとはいえ、仮にも支配階級の出はこういうものなのだろうか、何とも言えず苦笑するシスティルに、ともすれば呆れ顔のラティアとライフ。
「そもそも勝手についてきて無駄に偉そうなのは何処の野良貴族かしら?」
その言葉にムッとしたヴァネッサが馬車から降り、ライフに真っ直ぐ詰め寄る。
「野良ですってぇ!?」
「ああ間違えたわ、家出娘よね」
「言いたい事があるならハッキリ言いなさい!成金術士!」
「成金術士は貴女でしょ」
徐々にエキサイトしていくライフとヴァネッサの口論。
「二人とも一先ず喧嘩は…」
システィルが仲裁入ろうも、止まる様子は全くない。
そんな事はどこ吹く風。
ジルを引きずりながら戻って来たレクスが、釜戸を組み上げたばかりのラティアの所に押しかけるのだった。
「一通り出来たか。こっちも火を持ってきたぞ」
「あ、ありがとうござ…」
師の持ってきた火種に呆れ半分の絶句。
…まあ、火には違い無い。
「あー!!もういい!煮るなり焼くなり好きにしろ!!」
「言葉の用法はともかく、分かってるようだな」
ジルが炎で出来た鷹に姿を変えるが早いか、釜戸に放り込まれる。
ご丁寧に魔法精製した金網で覆い、傍に「猛獣注意」と看板を立てられる始末。
「い…良いんですか…?」
「本人が承諾済みだ。さて、さっさと朝飯を…」
そう言って釜戸に鍋を置くが、ふとその手が止まった。
レクスの視線は既にラティアや釜戸から外れ、遠くに浮かぶ山の輪郭の向こうに注がれていた。
そしてそれは、ラティアも同じく…である。
「な…何でしょう?今の…」
魔法の技術を鍛えている過程上、他人のマナの動きを敏感に感じ取る事ができる二人。
しかし何なのだろうか。
人のマナと似ているが違う。
先日のヘルの左手のドス黒いドロドロとした感覚とも似ているが違う。
山の向こうでそんな奇妙なマナが弾けたような感覚に囚われていた。
「…ラティア、感覚強化で山の向こうの様子を探ってみろ。御者、地図はあるな?」
ラティアが二つ返事で自らの耳や鼻にマナを集中させ始める傍ら、地図を受け取ったレクスが位置を確認する。
「山の向こう4クルトほど先にフレデリックという街があるのか」
「先生!!」
突然血相を変えてくるラティアの様子は、只ならぬ事が起きている事を物語っている。
「街が…何者かに襲われてるんですよ!」
「詳細は分かるか?」
「魔族のような人間のような…よく分からない強い魔力を持ってる人が一人…でもその人動いてない…街の人達が…!」
どうも要領を得ない説明。
とはいえ非常事態に違いは無い。
「直ぐに動くぞ。御者、フレデリックに直行する道はあるか?」
「え、ええ…予定のコースから大きく外れる形にはなりますが」
「構わん。それどころではない」
画して、ライフの実家へと向かう旅は一度、フレデリックへと足を伸ばす事となった。
フレデリックの街が一望できる地点まではおよそ2時間掛かった。
険しい道を越える必要があり、一筋縄ではいかない道程ではあったが、尋常ではない事態を無視するわけにもいかない。
ようやく街に入る頃には、想像以上に凄惨な光景が視界に飛び込んで来る。
道も建物もボロボロになり、夥しい数の人々が何かに切り裂かれ、或いは貫かれ、至る所に倒れて事切れていたのだ。
「おいおい…コイツぁ…」
バジルさえも絶句するその光景。
無論、あまりの光景に言葉を失っているのは皆同じであった。
そんな中でレクスが進みながら口を開く。
「バジルは馬車とヴァネッサとライフを連れて離れていろ…まだ何があるか分からん」
「そうだな…調査は頼んだぜ?」
馬車やヴァネッサは勿論、ライフもゴーレムに乗っていなければ戦闘力には含められない。
バジルを下がらせたのは、その巨体が相手を威圧する事もあるから…でもあり、彼女達の護衛でもある。
逆に、万一生存者が居れば、システィルの力は必要になるだろう。
一先ずはシスティルとラティアを連れて進む。
レクスの4妖精達も姿を見せ、周囲を警戒しつつ…。
「…一体、誰がこんな…」
ボロボロになった屍まみれの街。
それも進めば進むほどに、屍の数が増えていく。
その変化は否応無く、全員から言葉を奪い、緊張を張り詰めさせていく。
システィルもラティアも、口には出さない…出せないが、あまりにも凄惨な光景に顔面蒼白になっていた。
ふと、前を歩いていたレンが歩みを止める。
「生存者か?」
レンやオルが視線を向ける先には、目線の高さほどの大きさになる瓦礫の塊がある。
その向こう側に何かあるのだろうか?
「…誰だ…?」
よくよく聞けば、誰かが啜り泣く声。
その瓦礫の向こう側から聞こえる泣き声。
回り込んでみてみると、2体の遺体を前に1人の少女が泣いていた。
「生きてた…!」
思わずシスティルが駆け寄ろうとするが、その前にレンが静かに立ち塞がる。
そんなレクス達に少女が気付いたのは間もなくの事。
セミロングの鴇色の髪を揺らして振り向き向けられる瞳は涙で揺れていたが、レクス達を見るや、跳ねるようにして立ち上がる。
怯えなどという生易しい雰囲気ではない、恐怖に引き攣った表情を浮かべ、軽く後退するその小柄な体は、着ているローブの上からでも分かるほどに震えている。
「もう大丈夫だから…」
「やぁぁ!!!来ないでえぇぇ!!!」
刺激しないよう話しかけるシスティルだったが、直後レンが立ち塞がった理由を体感する事となった。
バンシーの嘆きにも劣らない叫び声を上げるだけならまだ良い。
レクスが咄嗟に展開した防御魔法にぶつかる5つの影。
システィルもラティアも一瞬何が起こったのか分からなかったが、ぶつかった直後その影が大きな人形だったと気付く。
「え…な、何?」
システィルが混乱するのも無理はない。
突然5体の人形が現れて襲い掛かって来るなど全くの想定外。
「…何だコイツは…っ」
事情はともかく、状況は悪い事に変わりはない。
レンが狼の姿に変貌すると、システィルとラティアを背に乗せ、レクス共々距離を取る。
「レクス、あの子もしかして…」
「もしかしなくても、この惨劇の犯人だ。だが妙…いや、ありえない」
「え?」
レクスの口を推して”ありえない”と言わしめるこの少女。
見た目だけでいえば、まだ幼いという言葉さえ似合う…10歳になるか否かの風貌。
しかしこの少女は計り知れない何かを宿している。
当の少女は軽く20メルタの距離が空きはしたが、それでも警戒を解く様子は無い。
寧ろ今にもまた人形を飛ばしてきそうな状態で、彼女の周りには武器を携えた人形達が控えている。
今の状態は正に触発状態の睨み合い。
しかし、そんな状況の中において、レクスは考え事でもしているかのような仕草を取る。
「あなたが”ありえない”と言い張るのも無理無いわね」
レクス達の背後から聞こえる声。
それは避難させていたはずのライフのものだった。
ゴーレムオーブから、ゴーレム内の操作用オーブのみ取り出して操作しており、そのオーブに触れる手から幾つかの魔法陣が現れては消えてを繰り返していた。
「…全く、死ぬ気か?」
「そうならない為の備えはあるもの。それよりあの子の事よ」
視線を戻した先では、少女は更に人が増えた事で刺激されたのか、正に人形に突撃させた所であった。
ライフもその挙動に反応してゴーレムオーブを突き出し、人形の進路上にフレイゴーレムを呼び出した。
間髪いれずゴーレムに飛び乗ると、マナフィールドを展開し、人形達の攻撃を受け止めた。
流石に18メルタ級のゴーレムの前に、70ゼネルの人形の突撃は豆鉄砲…そう高を括っていた。
「っ!!…フィールドの上から随分な衝撃叩き込んで来るじゃない…っ!」
「ったく!二人揃って勝手に飛び出すんじゃねぇぞ!」
人形を叩き落とそうと伸ばされる大きな手。
しかし人形はその手に捕まる事無く距離を取る。
バジルまで出てきたのだった。
「にゃろっ!!すばしっこいバケモン人形がぁっ!」
ゴーレムや巨人から見れば、豆粒のようなサイズの人形。
そんなものが高速で飛び回るのだから、彼らにとっては捕まえ難い事この上ない。
その上フレイゴーレムがフィールド越しによろめくほどの攻撃力すら持っている。
「アナタこそ下がってなさい…相性悪い上に攻撃力が半端じゃないんだから…それで種明かしだけど…」
フィールドの力を上げて耐え凌ぎ、範囲もバジルを包み込むまでに広げながらライフが言葉を続けた。
「…あの子、恐らく魔族と人間の子ね…推測の域を出ないけど…日の光の下でデッドリーマナを織り交ぜた魔法を扱えるなんて、そういう仮説をしなきゃ考えられない」
レクス達も瓦礫の陰に隠れながら少女の様子を伺う。
「半魔族というワケか…魔族の魔力とアポロスマナに対する人間の耐性を併せ持つ。随分強引な説だが…前例が無いから何とも言えないか」
「この状況にも説明がつきますし…となると…」
レクスは勿論、システィルもラティアも硬直する。
この微妙な間はどうしたものか。…口を開くとしたら恐らく自分からだろう…と、彼女は思った。
「何ですの…?」
3人をジト目で見るのはヴァネッサだった。
いつの間にやら同じ瓦礫で息を潜めて当たり前のように話しかけてはいるが、彼女もライフ共々避難しているハズだった。
「何でもない…」
フレイゴーレムとバジルは、人形の襲撃にフィールドでじっと耐え忍んでいる。
人形達は正に、蝶の如く舞い蜂の如く刺す…というが、動きは非常に素早く複雑。
機動性の低いフレイゴーレムや、パワー一辺倒のバジルでは相性が悪い事この上ない。
人形の動きを捉えきれず蜂の巣にされるのがオチだろう。
「くそっ…何とかならねぇのかっ!」
「私には無いわ…でも人形を引き付けておく的としてはデカブツ2体十分ね」
「はぁ?」
人形を操る少女を見てみると、レクス達とバジル達両方をあからさまに警戒している。
しかし…。
「あの動作…まぁあの年じゃ当然だけど、多数を相手するのに全く慣れてない。結局、子供は子供ね」
「私から提案がありますわ!」
再びヴァネッサに視線が集中する。
勿論、あの少女に対する警戒は必要だが…。
「あの子は保護すべきだと考えてますの」
「「「はぁ?!」」」
予想外のヴァネッサの提案は、勿論皆から驚嘆の域にもなる疑問を引き起こす。
しかしその中で、レクスだけは冷静だった。
「その考え、詳しく聞こうか」
疑問の色を含む視線は当然レクスにも向けられる。
そこに弾丸のように飛び込んでくるのは、驚いた少女に操られる人形のうちの1体。
再びレンがシスティル・ラティア・ヴァネッサを抱え、レクス共々飛び引いて難を逃れる。
「確かにあの子の罪は決して許されるモノではありませんわ。それに魔族の血筋ともなれば、下手に明るみに出ればどうなるか…」
誰も口には出さないものの、その先は容易に想像がつく。
あの少女に対する世間の風当たりは強くなる…否、それどころではない。
「分別の出来る大人なら、良くてもお縄について貰うのが妥当…でもまだあの子は…」
「そうやって甘やかすから増長する…っ」
マナフィールドで耐え凌いでいるとはいえ、その衝撃は徐々にライフの体力を奪いつつあった。
「甘やかすのと救うのは似て非なるものですわ!貴女もそうだったのではありませんこと!?」
「!!」
ライフは言葉に詰まってしまう。
それは正に、つい先日の自分がそうだったのと同じ。
「話は纏まったようだな。…ヴァネッサ、どうやらお前の認識を少し改める必要があるな」
瓦礫の影から突然、レクスが単身飛び出してしまう。
それは、いつ人形の襲撃に晒されてもおかしくない状況に自ら飛び出す行為なのは言うまでも無い。
更には腰に下げていた剣を、鞘ごとシスティル達に放り投げてしまう。
「れ、レクス!?」
「先生!何を!?」
システィル達はもちろん、標的になっていたライフやバジルも引き止めようとする。
しかし…。
「俺1人でいい」
ゆっくりと、しかし堂々とした歩みで少女に向かっていく。
「来ないで…!こっち来ないでぇ!」
少女の声に呼応するように、人形達の突撃が一斉にレクスに真っ直ぐ向かっていく。
しかしレクスもそれは予測済み。
直撃しないものは意にも介さず、あるものは頭を横に反らして避け、あるものは体を軽く捻って避ける。
「来ないで!…おとーさんにもおかーさんにも、もう…っ!」
何度人形を飛ばして攻撃を仕掛けても、尽く避けてしまう。
既に目の前まで迫ったレクスの背後から、少女は人形を飛ばすが、コレも同じ。
否、レクスが避けたという事は、人形が持っていた剣が勢いに乗って真っ直ぐ自分に飛んできている事になる。
恐怖を含んだ戦慄が一瞬のうちに訪れ、咄嗟に目を瞑る。
「一度に5体の人形を操るマリオネット魔法、俺でもなかなか真似はできんな…だが、怯えた感情に任せるだけの動きに捉まるほど俺は鈍くはない」
恐る恐る目を開けると、迫っていた剣は鼻先で止まっていた。
「ふぇ!?」
慌てて後ろに転んでしまうが、それで漸く見えた。
剣を持っていた人形を抱えて止めたのはレクスだった事。
レクスは完全に人形の勢いが止まったのを見て腰を低くし、少女と目線を合わせる。
「俺は別に苛めに来たワケじゃない…」
少女にそっと手を伸ばすレクス。
しかし警戒が完全に解かれたワケではない。
「っ!!」
今度は頭上からレクスに向け、人形がランスを構えて降ってくる。
「先生!」
「危ない!!」
降ってくる人形のランスは、狙い違う事無くレクスの左肩を深々と貫通してしまう。
飛び散るレクスの鮮血は、少女のローブにも赤い斑点を刻んでいく。
左肩に襲う激痛に顔を顰めはするが、レクスは少女に伸ばした手を引く事はしない。
怯える少女の頭にそっと手を置いて撫でてやるのだった。
「こんな年から…何もこんな重いモノ背負わなくていいだろうに…っ」
流石に痛みに顔を顰めはするが、レクスの表情に一切の敵意は無かった。
『せめて人間らしく…生きて…くれ…』
「…!」
レクスの姿にダブって見えたのは少女の後ろで力尽き倒れた父の姿。
厳しく気難しい父ではあったが、少女や少女の母をこの上なく愛してくれた父の、最期の言葉。
その面影をレクスに感じたのだろうか。
「お…と…さん」
遂には少女はその場にへたり込んでしまい、レクスの目の前で大粒の涙を零し始めてしまった。
「ふぇぇえええええん!!」
少女が操っていた人形は動きをパタリと止め、少女の周りに鎮座し、5体とも少女のように泣き出すような動作まで取り始める。
「…全く、何から何まで驚かされる…」
少女から害意が無くなったのを察し、システィル達がゆっくり歩み寄って来る中、レクスは少女の頭を撫でながら呟くのだった。
レクスの傷は程なくしてシスティルの魔法で跡形も無く癒え、漸く少女も泣き止む頃には既に太陽は南に位置する時間になっていた。
今はこの少女を馬車に乗せ、太陽の光から避けている。
というのも、やはりこれは魔族の血を半分受け継いでいる影響なのだろう。太陽の光を長時間浴び続けると、皮膚が赤く爛れてしまうのだ。
「そうか…ジャンヌと言うのか」
馬車の中でレクスの隣に座り、向かいの席には今まで回復魔法を使い続けていたシスティルの姿もある。
馬車の外からも、それぞれの思いを胸に皆が見守っていた。
ジャンヌと名乗ったその少女…ジャンヌ・ド・ラ・ファージュは、皆の視線が気になるのだろう、レクスの影に隠れてしがみついてくる。
「ド・ラ・ファージュ…ジャン・ローラン・ド・ラ・ファージュ子爵の忘れ形見ですのね…あの方には何度かお会いしたコトはありましてよ」
なるほど、意外にも貴族縁の者でもあるわけだ。
尤も、この血筋の上では如何ほどの価値もあるわけではないが…懐柔するヴァネッサの様子から、なかなかの人柄だったのだろう。
「おとーさんは…いつか私も外を歩ける世の中にするって…いっぱいお仕事頑張ってたの…でも…」
ソレは、まさについ昨夜の出来事であった。
つい先日誕生日を迎えたジャンヌは、父に貰った誕生日プレゼントの人形を抱え、母と一緒に遊んでいた。
「可愛らしいお人形さんねぇ…この子は何てお名前にするの?」
優しく微笑みかけてくる母。そのしなやかな手が、新しい人形を撫でていく。
彼女は魔族でありながら、人間であるド・ラ・ファージュ子爵を心から愛し、一人娘のジャンヌにも惜しげ無い愛情を注いでくれる。
「この子、クリステルちゃん!」
赤いスウェーデン民族衣装風のドレスを着付けた70ゼネルほどの大きめの人形を両手で抱え上げ、自慢げにジャンヌが言う。
5歳になった頃から毎年の誕生日に与えられる人形達は、このクリステルと呼ばれた人形で5体目。
今でこそジャンヌの身長は人形達に勝るものの、当時はそれこそ新しい姉妹が出来たが如く驚きはしゃいだものだ。
勿論今もソレは変わらない。
両手で抱え上げた5人目の妹がジャンヌの手から浮かび上がり、ジャンヌの母に恭しく一礼してみせる。
いつの頃からだろうか、彼女は人形を操る魔法を駆使するようになり、9歳になった今では半ば無意識のうちに操れるほどになっていた。
そして、そんな新しい姉妹を歓迎するように現れる4体の妹達。
スイスの民族衣装風ドレスを身に着けたフローラ。
黄色い編み上げドレスに身を包んだティファニー。
紫の花びらのようなドレスのジョゼット。
青いスイスの民族衣装風の装いのフローラ。
いつしか5体の人形達は踊り始め、童謡の歌を口ずさみながら笑う親子。
ジャンヌはその体質や血筋から、迂闊には外に出られない。
故に、せめて友達の代わりにならないものかと与えた人形達。
人形操作魔法もあり、今ではこの人形達も家族の一員のようになっていた。
魔族の血を引くこの親子でも外を出歩ける、そんな父の努力が実を結ぶ形で、ひっそりと穏やかな日々は、良い意味で終わりを告げるだろうと信じて疑わなかった。
扉が開く音が、微かに母の耳に届いた。
嫌に軋む音に違和感を感じる。
外を出歩けない立場上、家内の手入れも母の仕事の一つであり、あんな軋む音を立てるほど痛んでいる扉は無かった筈だ。
「ジャンヌ、ちょっと待っててね」
「はーい!」
聞き分けの良い娘の頭をそっと撫でて微笑むと、異音の正体を確かめようと立ち上がる。
部屋を出て、聞こえた方向と辿るように進んでいく。
角を曲がった所で、その正体に気付き、同時に絶句してしまう。
「じゃ…ジャン!?」
そこに居たのは、いつもは殿と構えて口数は少なく…しかし強い信念を持った最愛の夫。
しかし今はどうだろうか、全身打撲で血を滲ませ、息も絶え絶えに横たわっているのだ。
素っ頓狂な声に異常を察したのだろう、ジャンヌも居間から駆けつけて来た。
「おとーさん!!」
二人して駆け寄り、抱き起こそうとするも、ジャンは二人の手を払い、搾り出すように呟く。
「逃げなさい…ここは危険だっ…!」
二人が事を理解し、反応を見せるより早く、次の危機は訪れていた。
ジャンが倒れているのは玄関前。その玄関の扉を勢い良く蹴破る者が現れた。
近くの街フレデリックの住民達が大挙して押し寄せてきており、その表情は月明かりでも分かる程に畏怖と敵意を露にしている。
その手には、竿や包丁等といったものを明らかに”武器”として携行しているのが見て取れた。
「そいつらが魔族か!子爵!」
「やっぱり魔族に魅入られてたのね!!」
ある種の集団ヒステリーに陥っているとも取られるその光景に、ジャンは口を開こうとはしない。
しかしソレに静かに答えたのは、ジャンヌの母だった。
「…ええ、私が魔族…サキュバスのコレット・ド・ラ・ファージュですわ」
「コレット!」
制止しようとも、自ら名乗った以上最早遅い。
そして、自ら名乗るという事は、少なくとも彼女自身は逃げる気は無いという事だろう。
親子3人はそのまま夜の街の広場に投げ出される事となった。
「アンタを信じた俺達がバカだったよ!」
「魔族にほだされたクソ貴族め!俺達の命まで差し出す気か!」
「やめてください!」
街の人々に殴られ蹴られ、その渦中にあったジャンをコレットが庇う。
それでも街の人達の暴行は止まる事はない。
「おとーさん!おかーさん!…痛っ!!」
ジャンヌも割って入ろうとするが、今度は彼女には石が飛んでくる。
「どうせお前も魔族の子だろ!」
3人に加えられるヒステリックな制裁はいつまで続くのだろうか。
暴行と興奮のあまり、誰もが息を荒げる頃には、真っ暗だった空の東側は白く染まり、その下では3人とも無残なまでに打撲でボロボロになっていた。
「皆さんが…魔族を恐れる…コトは…当然です…」
体を起こすのも困難な状態で、それでもコレットは言葉を紡ぐ。
「恐れられるだけの…凶行の数々を重ねて来たコトは…事実です…」
コレットはジャンとジャンヌに目配せすると、ジャンが視線だけ向けて答える。
既にジャンは先の暴行もあり、最早指一つ、言葉一つすら満足に操れない重症。
咳き込めば喉から異様な音がし、吐血してしまう有様。
しかしその目は死んではいない。
考えているコトは、コレットと同じなのだろう。
「…ですが…この子は…ジャンヌはまだ…何も知らない子供…です…」
フラフラと、上体だけでも起こして訴える目は、魔族を忌み自分達に危害を加える人々を呪う目ではない。
ただ、1人の我が子を想い懇願する母の目であった。
「この子だけ…でも…見逃して…」
せめて、その願いだけでも叶えられるなら、どうなろうと…。
「う…うるさい!魔族め!」
包丁を両手で握り締めた中年の女が、声を震わせながら吐き捨てる。
「知ってるんだよ!そうやって…その子供が成長する頃に、皆殺しにしてアタシ達をデッドリーマナの畑にしようって魂胆だろ!?」
包丁を構えたまま襲い掛かってくる。
最後の願いも適わないのか…と、目を伏せるコレット。
「ッグ!!?」
その凶刃がコレットを襲うと思っていた。
だが、実際その刃を受け止めたのは…。
「お…とぉ…さ…!」
「ジャン…」
コレットを抱きしめ、その刃を背中に深々と突き立てられたジャンの姿がそこにあった。
「ジャンヌ…せめて人間らしく…生きて…くれ…」
あのどっしりと構えていた父親の、その言葉のなんと弱々しい事だろう。
その言葉に合わせるように、コレットもジャンヌに振り返って呟く。
「ごめん…ね…ジャンヌ」
その一言を呟き終えるか否か、朝日が昇り始めた。
魔族にとって、朝日とは如何なるものか、その光を浴びるという事は正に…。
「あ…ああぁぁアアアアア!!」
コレットの体が、突然炎に包まれていく。
抱き合ったまま、ジャンヌの両親が炎の中に消えていく。
激しい炎にそのシルエットを歪められ、二人が崩れていく。
「あ…あぁ…!」
ただその光景が、ジャンヌの心を抉っていく。
崩れていく穏やかな思い出を、ドス黒い感情が塗りつぶしていく。
「あぁ…あああああ!!」
ジャンの屋敷から音がした。
壁に勢い良く穴があけられるような音かと思っていた頃、同時に街の人達の間を何かが掠めていく。
「ん?」
「何…」
一部の人々は、その疑問符の言葉を最後まで呟く事は無かった。
次に異変に気付いた時、人々は狂ったように悲鳴を上げる事になった。
掠めていった何かは、その一部の人々の体を引き裂き、体を上下に泣き別れにさせてしまっていた。
そんな人々を、まるで壊れて狂ったかのようなジャンヌの瞳が捉え…。
「ひ…ピぁ!?」
脳天から真っ二つにされ、近くにいた人まで胴に大穴を開けてしまう。
「なんで…」
人々を引き裂いたもの…。
それは、ジャンヌが5歳の頃から誕生日の度に与えられた、あの5体の人形達だった。
「なんでおとーさんとおかーさんをぉぉぉぉぉ!!!」
誰もが言葉を失った。
9歳の子供が背負うにしてはあまりにも酷な話だ。
殆ど集団ヒステリーのままに目の前で両親が殺されたも同然。それをこんな小さな子供に耐えられる道理が無い。
だが、一方で集団ヒステリーに陥るほどの街の住人達の認識自体もまた、残念ながら不可抗力なのだ。
度々起こる魔族による虐殺や陰謀による被害はあまりにも凄惨で、人々に恐怖を与えるには十分過ぎるほどの事件になる場合も少なくない。
デッドリーマナを採掘する為に人々を陥れ、或いは虐殺する。
そういった魔族が大多数を占める中、人々に混乱するなという方もまた酷なのだ。
ジャンヌと街の住人、どちらもが加害者であり、被害者でもある。
彼女の肩を持つのは容易いが、問題はそんな簡単なものではない。
「ジャンヌの両親は…強いな」
「え…」
ジャンヌが顔を上げると、レクスと真っ直ぐに目が合ってしまって…。
「そういう、人を発狂すらさせるような常識にも真っ向から挑もうとした…」
その目は、自信と信念に満ちた父を髣髴とさせる。
だからだろうか、レクスと真正面から目が合っても、背ける事をしなかった。
「母親もだ…あの土壇場で、皆を退ける事だってできた筈…それどころか敵意一つ見せる事無かったんだろう?」
魔族と人間の力の差は歴然。
仮に10年や20年碌に動かなかったとしても、普通の人間が敵うほどに訛りはしない。
それほどまでに、人間と魔族の力の開きには差があるのに…だ。
「なら、お前はあの場で、誰も殺すべきではなかった」
「…でも…」
反論しようとするジャンヌの頭にそっと手を置く。
言いたい事は分かっている。
「どうしても耐えられなかったんだろう…」
小さく頷くジャンヌ。
両親が殺される様を見て、正常な心理で居られるハズが無い。
おおよそ純粋な魔族だっただろう母親ですら人の心を理解していたその娘が、人の心を持てない道理が無い。
「ジャンヌ、街の人達を人形達で襲った時、どんな感じがした…?」
その問いは、ジャンヌを困惑させた。
突然そんな事を聞かれれば、それは困惑もするだろう。
だが、レクスの目はやはりジャンヌの目を捉えて離さない。
「…すごく嫌な感じだったの…おとーさんとおかーさんに酷い事した人達なのに…」
それを聞いたレクスは小さく頷く。
「それで良い…絶対に忘れるな」
言いながら、レクスが小脇から持ち出すのは大きめの人形。
それはジャンヌが先程まで操っていた人形達。
既に黒く固まり始めた返り血は元の色を判別するのも難しく、既に気味が悪いというよりは痛々しいと言える。
ソレに気付いたジャンヌが残りの人形達を呼び集めるが、皆一様に返り血で見るに耐えない姿になっていた。
「っ…!」
変わり果てた人形達の姿にジャンヌも息を飲む。
するとレクスが剣の柄に手を当てて、小さく一言呪文を口にする。
その魔法は、人形達に染み付いた血糊を、ガラスが砕け散るようにして散らし、おおよそ本来の色合いを取り戻させる。
赤いドレスに身を包んだ人形をジャンヌに抱かせるのだった。
「…いつか、自分がすべき事が分かる時が来る…だから忘れるな」
抱きしめた人形は、その姿こそ綺麗に元通りになっている。
しかし、その人形に染み付いた生臭い鉄のような匂いばかりは、レクスでも払い切れなかったのか、わざと残したのか、今のジャンヌには知る術は無い。
その日は結局、フレデリック跡地で夜を迎える事となった。
最寄の保安所(とはいえ、隣町までの距離はあるが)への通報や近隣都市への通達…また保安の兵達が到着するまでの間、生存者の捜索や遺体の弔い等、然るべき措置を取る間に陽が落ちていたというわけだ。
結局生存者はレクス達の捜索では1人も見つかる事はなかった。
遺体の弔いも、とても1日で済む数ではないが、翌日には本格的に保安員達がフレデリックに入る事になった。
余談ながら、通報にあたっては魔族の件についてはあえて触れずにいた。
「ふぅ…」
焚き火の前に漸く腰を落ち着けたシスティルに、レクスが作ったスープをラティアが差し出す。
「お疲れ様です、システィルさん」
「ん、ありがとう」
遺体の弔い…特にデッドリーマナの溜まり場にならないよう浄化する術はシスティルの分野である以上、彼女の仕事が特に多かったのは自然な流れだった。
「ジャンヌちゃんは、あれからどう?」
「泣き疲れて眠っちゃったみたいですよ」
傍に停めてある馬車の入り口からは、焚き火の赤い光にほのかに照らされるジャンヌの寝顔が見える。
「あの子の罪…明言は避けたわね。まぁ仕方ないけど…これからどうするの?」
「あのチビ、放っておくわけにもいかねぇけどよ、連れても行けねぇし、安易に保安員に差し出すのも危ねぇよな」
ライフとバジルの言葉は、一斉にレクスに視線を集めた。
「連れて行くさ」
「「「ええ!?」」」
アッサリ答えるレクスに驚く中、ただ1人ヴァネッサだけが冷静且つやや呆れ気味に…。
「まぁ一番現実的な線ですわね…」
そう嘯いた。
勿論異論が上がるのも自然な流れである。
「この旅も安全な旅じゃないのよ?」
「存じていますわ…でもどこに預けようと、彼女の血筋が知れるのは時間の問題。保安員も保護施設も世話してくれるのは人間でしてよ?素性が明らかになった時どうなるか…」
「!!」
「…このフレデリックの二の舞か…少なくとも良い結果は期待できませんわね」
残念ながら、この中に反論できる意見を持つ者はいない。
人々が魔族に抱く畏怖の念は、生半可なものではないのだ。
「あいつがやるべき事の自覚と処世術を覚えるまで面倒を見る」
「ちょっ…マジかよ!?」
「野垂れ死ぬか本当に人類の害になるか…そんな答えが待ってるより遥かに理想的な答えだ」
皆一斉にため息を漏らす。
レクスがやると言い出した以上梃子でも動かないのは皆嫌というほど知っている。
「まぁ…そもそも魔族の虐殺事件が、どれほど”本当に”魔族にやられたものかは疑わしいが…」
「え…?」
嘯くレクスのセリフの意味を一瞬図りかねていると、馬車の方から物音が聞こえた。
「…どうした」
皆の視線が集中する先には、何かの拍子に目を覚ましてしまったのだろう、ジャンヌがおずおずと様子を伺うように見ていた。
何度も皆とレクスとの間で視線を泳がせる。
急に飛び出したと思えば、そのままレクスの背中に飛びつくように隠れる有様だった。
「ジャンヌちゃん、大丈夫よ。皆ジャンヌちゃんの味方だからね」
あやすようにシスティルも声をかけるが、やはりレクスの背中から出てくる気配はない。
それどころか…。
「…グス…ふぇえええええん!!」
…そのまま泣き出してしまう。
否、泣き出すならまだいい。
突然飛び出してきた5体の人形達までレクスに抱きつき、ジャンヌのように泣く動作をする始末。
レクスは、抱きつく人形達で何だかよく分からない塊になってしまうのだった。
「…あまり子供の相手は得意じゃないんだがな…」
「先生、そういう問題でもないような…」
呆れ半分に苦笑するラティア。
レクスに密着するジャンヌに複雑な顔を浮かべるシスティル。
小さくため息をつき、本に視線を落とすライフ。
生暖かい笑みを浮かべるバジル
レクスに懐くジャンヌを微笑ましく眺めるヴァネッサ。
そして…家族を失った代わりに、一つの救いの手を得たジャンヌ。
数奇な廻りの元に集まった7人。
その運命はどこに向かうのか…。