02:背を追い駆ける者
レクスは早々に街から離れ、山道に差し掛かっていた。
山腹を縫うように続く道をひたすら歩いていく。
早朝に街を発ち、既に西に日が傾きかけているわけだが、レクスは背後の気配にいい加減うんざりしていた。
「あの狼娘…まだついて来る気か」
街を出て暫く昼を過ぎる頃までは、弟子にしてほしいだの断るだの激しい口論が繰り広げられていたわけだが、口で突き放してもまだ諦めがつかないのだろう。
レクスにしてみても、過去ここまで粘る入門希望者はそうそう見ない。
「いい加減撒くか」
ラティアはレクスの姿を見失わない程度の距離を保ちながら後を付いて行く。
どうしても諦め切れなかった。
もっと強い魔術師になるには、学校の魔法の授業だけではとても満足できない。
強い魔術師への道を渇望するラティアにとって、レクスは大きな道標に他ならなかった。
それにしてもレクスもなかなかに譲らない。
「うーん…どうしたら認めてもらえるのかなぁー」
午前中散々口論したが、全く進展はなかった。
考えあぐねていると、突然レクスの姿が消える。
「…あれ?!」
一瞬目を疑い、消えた場所まで駆けていくと合点がいった。
それと同時に驚いた。
崖といって差し支えないほど急な谷に飛び降りていた。
谷に見える川が糸のように細く見えるほどの高さで、当然普通なら大惨事になる高さだ。
無論あれほどの魔法を使えるレクスが死ぬとは思えない。
「うー…でも…っ」
後を追うべきか迷った。
迂回する道も一瞬考えたが、それでは見失う。
ついには意を決して、ラティアまで絶望的な高さの崖を飛び降りていく。
「諦め…なあああああああいっ!!って…キャアアアアアアアアア!!!?」
諦めきれずに飛び降りたのは、間違いだったかもしれないと一瞬思ったが、後の祭り。
谷底に落ちる準備の魔方陣を描き始める。
当のレクスはといえば、谷底に叩き付けられる直前、足元に風を起こして衝撃を大きく和らげ、見事着地する。
「これで大丈夫だとは思うが…」
この高さから飛び降りるなど、それこそよほど場慣れしている魔術師か、よほど気が触れている者くらいだろう。
前者なら一日中追い駆けてくるほどではないハズだ。
しかし直後、レクスの耳に飛び込んできたのは、必死に魔方陣を描いている狼娘の悲鳴だった。
「…つまりよほど気が触れてる方ってワケか…っ!」
ラティアの魔方陣は完成し、同じく風を纏うが、レクスの目には明らかに無謀に見える。
風にあまりにもムラがあり、しかも衝撃を和らげるにはとても足りない。
とっさに剣の石を掲げ、ラティアを更に風のクッションで包み込んでいく。
「へぶっ!?」
顔面から着地するラティア。
およそ即死ものの衝撃こそ大きく緩和されたものの、涙を浮かべて顔を押さえつける。
痛みに表情を歪めながら辺りを見回すと、当のレクスの姿が見当たらずが、その姿は見えない。
ところが、近くの川まで来てみると、目を疑った。
恐らくは魔法で作っただろう大きな氷の上に乗り、川を下っていく。
「ちょ!ちょっと待ってくださいよーぅ!!」
目の幅涙を流しながら叫ぶ狼娘を他所に、当のレクスは氷の上で釣りに興じていた。
1時間ほど流れただろうか。
夕食代わりに吊り上げた魚を担いだレクスは、適当な木陰に腰を下ろす。
「やれやれ…流石にあんな変わった追っ掛けは初めてだな……ジル!」
レクスの呼び声に応じて、どこからともなく火の粉が舞うと、瞬く間に火が大きくなる。
火が徐々に人の形を成していき、現れたのは見た目彼と同じくらいの年頃だろうか、燃え上がる赤い髪を持つ女性だった。
「少し面白そうな追っ掛けっこだったじゃない…って何をアタシの頭に乗せてるのよ!」
「おおーいい具合に火が通るな…」
ジルと呼ばれた炎の女性の、頭におもむろに吊り上げた魚を乗せると、途端に煙が沸き立ち、焼き魚の香りが漂い始める。
「妖精を釜戸代わりにするなー!」
釜戸代わりにされて怒った途端、火力が上がったのだろう、瞬く間に魚が真っ黒に焦げてしまう。
「あ〜あ…折角の晩飯が…」
黒焦げになった魚を取り、焦げ目を剥ぎ取り、中の身に齧り付いていく。
「はぁ…それにしてもさっきの子、随分な気合の入りようね」
「全くだ…が…俺にもあんな頃があったな…」
「老け込むようなコト言わない」
「随分と恩師に噛り付いたモンだ」
ふと遠い目をするレクスに呆れて、大汗を垂らすジル。
「…まぁ、いいけどな」
再び魚を口に運ぶレクス…しかし
「やっと追いついたーっ!」
魚に齧り付いた所で、聞き覚えのある声に噴出しそうになる。
「…お前よくここに居ると分かったな」
「そりゃもうっ!ワーウルフの嗅覚と匂い辿る魔法のコンボをフル活用ですよっ!」
(こういう時だけしっかり役に立つ使い方してるな…全くコイツの性格だと世界中楽しくて仕方なさそうだ)
直前までの息切れも何のその。
満面の笑みに力いっぱいのサムズアップをするラティア。
呆れるという言葉はこういう時のためにある…とでも言わんばかりに、レクスにどっと疲れが押し寄せ、肩を落とす。
「ジル…下がってな……そんな食って掛かるなら、俺からも一つ聞いておきたい」
はいはいとため息交じりに姿を消すジルをよそに問い返す。
「お前は何がお前をそこまで魔法に駆り立てるんだ…お前の種族なら他にもっとできるコトもあるだろう?」
一瞬きょとんとするラティア。
だがレクスは見逃していなかった。
元気を絵に描いたような彼女の表情から、ほんの一瞬だが笑顔が失われた事。
「…目標なんです」
「そのくらい分かる」
一瞬で切り返されるのはなかなかのプレッシャーだった。
同時にそれは、半端な誤魔化しは通用しないという事でもある。
「私の最初の友達で…私の村の恩人…すごい魔術師…」
震える手。
憂いを隠し切れない表情。
彼女が辿る記憶…それは憧れと共に心に重くのしかかってくる。
「あの人に追いつきたくて…いつか隣に立てるくらいになりたくて…お願いします!魔法を教えてください!」
深々と頭を下げる。
それこそ勢い余って前に転びそうになるほど…。
しかし…
「…あれ?」
頭を上げると、そこにはレクスの姿が見当たらなかった。
辺りを見回すと、レクスはさっさと先に進んでしまっている。
「ちょ…ちょっと!待ってくださいよぅ!」
慌てて後を追う。
弟子にすると断言はされてないものの、さすがに理不尽さを感じたのはラティアの気のせいではない…筈だ。
「あまり騒がん方がいい…この一帯はグルズサーペントが徘徊していると聞く」
「グルズサーペント?」
「地竜の一種だ…知能は低いが獰猛で、子供や死肉を好んで食うとか」
正直そんな事は聞いていなかった。
とはいえ元々は、ラティアを撒くために進んできた、想定外の道だから仕方ない。
「この一帯から出るまでは付き合ってやる…バケモノに食われたくなければ離れるなよ」
そういえば先程、レクスは火をおこさず妖精で魚を炙っていたが、火の気の跡を残さない為だったのだろうか。
必要以上に語らないこの魔術師は、ラティアには何を考えているのか想像もつかない。
あれからかれこれ30分ほどは歩いただろうか。
延々と道なき道を進み続けるものの、その間一切言葉を交わしていなかった。
騒ぐなと言われてるのもあるが、何となく声を掛け辛かったのもある。
ふとラティアの耳が、聞き慣れない唸り声を捉えた。
それは獣道から外れた岩の向こう…岩の横から見るとそこには、全長15メートルほどの竜が、独特の不気味な目でギョロギョロと周囲を見渡している。
そこそこ距離はある為気づかれないとは思うが、心の中では緊張が走った。
「あまり観察してると見つかるぞ。面倒な事になる前に去るに限る」
あの竜がグルズサーペントなのだろう。
軽く姿を確認しただけで進み続けるレクス。その後を追い駆ける。
いや、追い駆けようとした。
「!?」
進む方向に向き直ろうとした一瞬、ラティアの視界に飛び込んできた人影があった。
グルズサーペントの足元の岩陰に、身を縮めるようにして隠れている子供が居る。
否、今まさにグルズサーペントの目が、岩陰の子供を見つけてしまった。
「大変!!」
岩影から身を乗り出す。
レクスに状況を伝える時間もない。
素早く岩から岩へ飛び跳ねて行き、今まさに子供に齧り付こうとするグルズサーペントとの距離を詰めていく。
一方レクスは、ラティアの気配が急に遠ざかるのを感じながら…
「行ったか…さて…」
グルズサーペントの大顎が地面を抉る。
だがその口の中は土ばかり…
「間に…合った…」
目がギョロリと動き、ラティアの姿を捉える。
両腕で子供を抱え込み、勢い任せに転がったのか、子供もろとも土埃まみれで起き上がる。
「…怪我は…ない?」
グルズサーペントを睨み返しながら、子供の安否を問う。
子供を怖がらせないよう穏やかに装っても、さすがに10倍近い体躯の化物の手前、気押されて声も手も震えている。
「う…うん…」
「じゃあ…逃げて…全力でっ!」
自身の恐怖心を無理に振り払うように…語尾が強くなってしまう。
子供も、ラティアの手足が震える程の緊張に気押され、走り出していく。
それを確認すると、ラティアは正面に魔方陣を描いていく。
「ダメで元々…!いっけぇ!」
齧り付こうと突進してくるグルズサーペントに向けて、持ち前の魔法の中で飛び切り強力なものを打ち出していく。
正面からぶつかり合い、爆発を起こす魔法とグルズサーペント。
同時にラティアはその場から飛び引く。
つい昨日も、巨大化した岩トカゲ相手に全く歯が立たなかった手前、決定的な効果は元より期待していない。
そしてその読み通り、グルズサーペントは爆煙を突き破って顔を出す。
さすがに無傷というワケではないが、先ほどより見るからに荒々しい分、神経を逆撫でして逆効果だったかと後悔する。
「ちょっと…これは…」
明らかに機嫌が悪くなっている。
怒気を隠そうともせず荒々しく突き進んでくる。
ラティアも全力で逃げ出すが、流石というか相手もなかなかに早い。
地響きを起こす巨体が少しずつ近づいているのが分かる。
「来ないで来ないでー!!」
もう次の1歩2歩で踏み潰されそうな距離。
ところが一瞬地響きが止む。
次に響いた地響きは、真後ろから横に大きくそれた位置…それも相当大きな地響きだった。
「危ないと言わなかったか…?グルズサーペント相手に無茶をする」
突如方向が逸れた地響き。そしてそれに次ぐ声。
「レクスさん!?」
振り返ると、巨人魔法で大きくなったレクスがグルズサーペントの居た位置に立っていた。
そして横に逸れた地響きの正体。
側面からレクスの不意打ちでも受けて飛ばされたのだろう、グルズサーペントがよろけながら起き上がる。
「あのチビは逃がしたんだろう…?」
「は…はい!」
「なら上出来だ…」
慌てて返事をするラティアに対し、怪物を目前に足元のラティアの様子を伺う余裕があるのは、流石ソレイラント最上級の魔術師か。
レクスは離れていろと一言残すと、剣を前に突き出して…
「ん…?」
怪訝な表情でグルズサーペントを見遣る。
グルズサーペントの体が激しくのたうつ。
度重なる邪魔に怒りを露にするのとは違う。
どちらかといえば、苦しみもがいている様子にも見える。
その体は徐々に怪しい光をおぼろげに放ち始めて…。
「…巨人魔法か」
瞬く間にグルズサーペントの体は膨張し、全長40メートルにもなる巨大な竜の姿になってしまう。
目は一層不気味且つ狂気を帯び、全身の鱗は一層厚みを増し、筋肉が一層無骨に盛り上がる。
大きく振り上げた腕が、レクスに向けて振り下ろされる。
難なく紙一重で避けるものの、立っていた地面は大きな穴を作ってしまう。
「全く…過ぎた悪戯だ…っ!」
竜の背中に飛び乗ると、剣を突き立て、剣の柄の石が輝き始める。
「ペルセリア…!?」
魔法発動の最後のスペルを唱えるものの、すぐさま剣を引き抜き飛び降りてしまう。
先日のトカゲと違い、縮む気配が全く無い。
「レクスさん?」
「マナを吸収する魔法に反応して、マナを吸い返す魔法か…」
正直ラティアには、あまり聞こえのいい答えではなかった。
単純に考えれば、巨人魔法を解除する方法が無く、この巨大化した竜のまま退治しなければならないというコトになる。
何せ生身で使えば元に戻れない魔法だ。
巨大にして凶悪な暴走する力同然だから、放っておけばどんな騒ぎになるか分かったものではない。
撒くことなら出来ても、問題の種を残してしまう事になる。
「読みが正しければ…本気を出すのは得策ではないな…少しだけ全力を見せてやるか」
背中まで飛び回られるのが不快なのか、上体を起こして激しく暴れ回る竜。
40メートル級の怪物が暴れるのだから、下手に逃げ遅れれば巨人魔法レクスといえどあっという間に押しつぶされるだろう。
竜の腕がぶつかる瞬間足を浮かし、剣で受け止めてしまう。
「来い…炎の鷹…猛者ジルバート!」
剣の刀身に光の文字が浮かび上がると、竜の爪と剣の間から発生する火の粉が急激に膨張し、ついにはレクスを超えるほどの巨大な炎の鷹の形を形成する。
さしもの竜も一瞬慄き、動きが止まる。
その一瞬距離を取りながら、空を剣で一閃。
「風の狼…守護者レンバート!」
薙ぎ払う剣から生じる風が、先日の風の狼の形を成していく。
さらに着地しつつ地面に剣を突き立て…
「地の梟…賢者オルバート!」
黒い土の塊が盛り上がってくると、突然岩の表面が剥がれるように翼を広げて現れる、レクスよりやや小さい程の梟。
剣を引き抜けば、正面に水平に構える。
「水の麗鳥…聖者ラルバート!」
水平に構えた剣に集まる水蒸気。
その水が突然跳ね上がり、透き通るような白い羽毛を纏う、レクスより一回り小さめの白鳥が姿を現す。
「バートって…ええぇ!?」
ラティアは、目の前で繰り広げられる妖精同時召喚に目を疑った。
妖精と契約し使役する者は、珍しくはあるが聞き慣れないほどではない。
しかし、バートという位がつく妖精となると話は別である。
しかもバート級の妖精4体と契約しているなど、世界広しと言えども恐らくレクスくらいなものだろう。
しかし、ラティアの予想外の出来事はそれだけでは終わらなかった。
未だに輝き続けるレクスの剣。
その剣を地面に突き立てると、剣の光が四方八方に散って平面状に走り出し、瞬く間に巨大な魔法陣を描き上げてしまう。
その魔方陣の周囲を包むように、オーロラのような魔法の壁が生じ、その中でレクスを中心に、悠々と4体の妖精が駆け抜ける。
先ず変化を表したのは黒い梟だった。
頭頂部が前面に展開し、同時に足の付け根が伸び、その胴体が左右に分かれていく。
そのままレクスの下方から近づいていき、梟の頭からレクスの足が格納され、膝に魔法陣が描かれた大きな足を形成する。
続いて緑の狼が飛び掛るようにして近づいていく。
足を畳み、胴が展開してレクスの両肩に乗ると、展開した胴がレクスの大きな襟になり、更に狼の胸と腰から上腕が迫り出す。
鷹がレクスの後ろに回り、胴体を展開して頭部を外し、背面にドッキングしていく。
展開した胴がレクスの胸と腰を包み込み、大きな鍵爪がレクスの肩をしっかりと固定する。
そして白鳥もまたレクスの前から近づいていくと、首を切り離して胴が左右に割れ、狼から展開した上腕に連結して前腕を形成する。
拳が迫り出すと鷹の翼がレクスの腕を包み込むように畳まれ、巨大なマントのようなシルエットを作り出す。
鷹の頭から変形した赤いとんがり帽子が宙から舞い降りてくると、合体したレクスの左手が帽子を取り、自らの頭に被せていく。
帽子の縁を親指で押し上げると、瞳が強く輝き…右手を前に突き出せば、合体後の身長にも匹敵する巨大な杖を創り出して取る。
「魔導融合…ヴァンレクス」
幻想的な魔法陣の中で、レクスは4体の妖精と融合してしまったのだ。
その姿は神秘的でもあり力強くもあり…元より理性を持たない竜ですら手を出す事も忘れる光景であった。
「あまりこの姿は使いたくないんだが…今日は特別サービスだ」
誰よりも驚いていたのはラティアだった。
只でさえ珍しく、且つ難解なバート級妖精同時使役…そこに来て更に融合魔法まで使ってしまったのだ。
レクスの能力は勿論だが、レクスが今の一瞬の間に使った魔法はどれをとっても常識離れしている。
そして何より、ラティアはそのシルエットそのものに過去が重なり、ただ目を丸くするばかりだった。
「…ディレア…さん…?…でも…」
呆然としていたラティアの意識を引き戻したのは、竜の大きな雄叫び。
轟音と言って差し支えないほどのそれは、まさに音の力だけで吹き飛びそうなほどだ。
見てみると竜は、大口を広げてヴァンレクスに特大の火球を放とうとしている。
「生身で巨人魔法使うと、本当に単調だな…それしか芸がないのか…」
ロッドを掲げ、同時に左手も大きく広げると、両手足から生える翼が大きく開く。
すると、周辺の大地から無数の淡い光の玉が浮き上がり、レクスの手足の翼へと吸い込まれていく。
対する竜は、その光景に危険を感じたのか、口の火球をレクスに向けて放つ。
「レクスさん!?」
無防備を晒すヴァンレクスに流石に慌てたラティアが声を張り上げた。
しかしヴァンレクスに近づく程に小さくなっていく火球。
よく見ると、火球まで光の玉に分解して吸収してしまっている。
「ええええ!?」
十二分に光の玉を吸収したヴァンレクスの、ロッド・左手・両膝から大きな魔法陣が出現する。
4つの魔法はレクスを囲むように広がって…。
「う…うそぉ!?あんな大魔法を4つ同時に撃つつもり…」
「目は確かなようだな…」
ボソリと呟くレクス…その瞳が一層強く輝き…。
「…クォータル…ウィスターシア…!」
4つの魔法陣の中心から一斉に吹き出す火柱・水の激流・竜巻・岩石の牙
その規模たるや、40メートルを越す膨張した竜を飲み込んでも十分余りある。
その巨体を4大魔法の奔流が軽々と跳ね上げてしまい、空中で大爆発を起こす。
「う…うわ…はは…」
ラティアは改めて、昨日から散々追い回していた魔術師の腕を目の当たりにし、最早笑うしかなかった。
一方のヴァンレクスは、ラティアのすぐ傍まで舞い降りながら、音も無く融合魔法、巨人魔法を解く。
「何を間抜けな顔してるんだか…」
「えぁ…いやこんな…凄かったなんて…」
「あれで驚くか」
常識外れにも程があると、ラティアは心の中で呟くものの、流石に声に出すわけにも行かず…。
「さて…件の話だが少し気が変わった。俺に師事したければ着いて来い。
但し…この先さっきのような騒ぎが着いて回るかもしれんぞ」
「…え?」
後半はともかく、一瞬耳を疑った。
「お前も気が変わったならそれで構わん。面倒事が減る」
恐らく聞き間違いではない。
そう認識した途端、レクスのズボンの裾を掴んでいた。
「い…行きます!でもちょっと…」
「何だ…」
「こ…腰が…抜け…」
派手に溜息をつくレクス。
尤も原因は、常識外れなレクスの実力にあるワケだが…。
流石にこのままでは埒があかず、暫くラティアを背負って歩く羽目になった。
(アンチ・マナドレインの魔法か…どうも俺を追ってきているのは、ラティアだけでは無かった様だな)
来た方向とはまた違う方角を目指して歩きだす二人。
その二人を遠目に監視する男が一人。
「バート級妖精4匹持ちねぇ…思った以上にやるモンだ」