生物学上、動物の進化の過程で、チンパンジーから知恵と技術に特化して生まれたのが人間であると言われている。
そしてそれは、今日最も真実味のある常識として認知されている。
宗教の伝える歴史上、様々な物語はあるにせよ、人間は他の動物とは一線を画した生まれ方をしている。
それは今日では、人間の主観で『作り上げた物語』という認識か、ある種のオカルト的な物語として識別されている。
ここに、ある偉大な科学者が遺した言葉がある。
 ―宇宙に意思あり―
果たしてこの言葉は彼の狂言か、或いは科学の境地に至った末に見たものか。



なだらかな弧を描く海岸に沿って広く発達した街…成光市。
南部は海に臨み、北部に小高い山が聳え、人口60万人程度が暮らす街。
その街を一望できる、北部の最も高い山…成光山。
夜ともなれば照らす灯りもなく、天に星が、地に街の明かりが映える。
その山の頂に立てられた神社…街の名の由来となった成光神社がある。
今では誰も訪れないのだろう、神社は朽ち果てて屋根や壁が崩れている箇所も多く、境内は雑草が生え放題。辛うじて原型を留めている柱や壁にも蔦が這う、見るからに古い建物である。
誰も訪れないそこに起こった変化…目撃者が居ようものなら、腰を抜かして目を疑ったかもしれない。
神社の入り口付近に、何処からともなく無数の光の粒子が沸いて集まり、光の粒子達が幻想的に舞い踊りながら人のカタチを形成していく。
その超常現象の光が静かに消えていくと、そこには一人の青年がいた。
何も無いハズのその場に現れた青年は、紺色の髪を静かに掻き上げ、髪と同じく紺色の瞳を開く。
その瞳は遠く広がる街並を一望し、思い耽るように目を細め…静かに呟いた。
  「前回から80万年になるのか…随分変わったな…」
人間のカタチを成しながら人間ではない者…。
膝の高さを上回る雑草も気にせず歩き出し、その街に向かって歩きはじめる。



日中の成光市街は大勢の人が往来する。日曜ともなれば尚更の事だった。
営業に走り回るサラリーマン。行楽に出掛けてきた親子連れ。学業から1日開放され羽を伸ばす少年達。
実に様々な人が往来する中、一人の女性が駆けていく。
17歳ほどだろう、肩口まで伸ばしたベージュ色の髪を揺らし、人々の間を縫うように、その人=織笠紗由璃は目的地へと足早に走っていた。
  「すっかり遅くなっちゃった…間に合うかなぁ」
大通りの歩道を真っ直ぐ進む…あと数百メートルで駅に到着するだろう位置だった。
ところが駅のすぐ手前、不運にも信号に捕まってしまう。
内心逸る気持ちを抑えつつ立ち止まり、携帯電話の時計を見ると、既に10時を12分ほど回っている。
  「おっそーい!」
不意を突いてくる声が、道の反対側から聞こえてくる。
聞き覚えのある友人の声…見ると横断歩道前で足止めされる人込みの端に、その姿があった。
  「桐絵!街中でそんな大声で…」
集中する視線が妙に痛く感じ、頭を擡げてしまう。
今日は友人と数人で映画を見に行く約束だった。駅から程近い映画館とはいえ、15分からの上演である。
遅れた自分が悪いとは思いつつ、流石に騒ぎすぎだろうとも思い、萎縮してしまう。
仁王立ちしている友人、桐絵に睨まれながら数秒、信号が青になるのを見ると一気に横断歩道を駆けていく…が
  「きゃ!?」
  「おっと…」
焦りから前方不注意で、思わず人にぶつかってしまう。
  「す、すみませ…
  「申し訳ございません!!」
謝ろうとした拍子に、先程の桐絵の声より大きく張りのある声で先に謝罪されてしまう。
紗由璃にしてみれば、あまりに突然でビクっと肩を跳ねさせて驚く以外にない。
横断歩道を渡る人々はもちろん、少なくとも見える範囲の殆どの人が振り向いてしまう。
  「え…あ…いえ…頭を上げてください…」
顔を真っ赤にし、ぶつかった相手に促す。
背筋を伸ばして深々と頭を下げる青年。
  「…?」
青年を目にした途端、何処と無く覚える違和感に、一瞬周囲の視線を忘れてしまう。
その青年こそ、つい先日成光山の怪現象で現れた青年なのだが…恐らくそこまで知る由も無いだろう。
  「もー!早くしてよー!」
  「あ…」
我に返ると、横断歩道のど真ん中で皆の視線を浴びていることに慌てて顔を赤くし、走り去ろうとする。
  「こちらこそ、すみませんでしたぁ」
わざわざ謝辞を残しながら去っていくのは、彼女の性分だろうか…。
彼女の走り去る姿を眺める青年。
その表情は驚き…そしてどこか乾いた笑みを浮かべる…。
  「『生きてた』んだな…いや…それでも私はあの時…」
遠い記憶に想いを馳せながら、彼女が姿を消した方角を眺め続け…ふと耳障りな音が聞こえた。
音の発信者に目を向ければ、そこには発進しようにも青年が棒立ちになっていて進めない車の姿。
その音は他でもない、車のクラクションだった。
  「何やってんだ!さっさと渡れよ!!」
青年は既に信号が変わっているコトに気づくと、慌てて飛び引く。
  「申し訳ございませんでしたっ!!」
急発進していく車に、声を張り上げて頭を下げる。
尤も、当の運転手は聞いてはいないのだろうが…。



そこに広がるのは、不気味なオブジェの並んだゴシック建築の謁見の間を、そのまま巨大化させたような空間。
その部屋を照らす光は無く、薄暗い中に何体かの影がある。
その影それぞれが、薄暗い空間に溶け込む黒に塗りつぶされ、それ以上に濃い瘴気が一層強烈な威圧感を持つ。
  「…で、どうするのが良いと思う?」
輪郭すら掴めない影の一つが、他の影に問いかける。
その影達の眼前には、例の青年の姿が映し出されていた。
  「ここ数年で降りてきた『神』は4体目…気配から察するに、この『神』で間違いない」
  「何の冗談だァ〜?先の3匹の方がまだ手応えがありそうだぜェ?」
口々に漏らす影達…。
だが突然、影達の強烈な威圧感も霞む、あまりにも濃すぎる瘴気の気配が背後から伝わってくる。
それはあまりにも大きすぎ、あまりにも強すぎ、あまりにも危険すぎる存在。
その一挙手一投足、僅かな動きすらも、影達にとっては恐怖そのものだった。
  「お…脅かす…」
「脅かすなよ」とでも言い掛けたのだろう、その影は、言葉を紡ぎきる前に言葉を失ってしまった。その上半身ごと、ごっそりと…。
  「若造が…大変無礼を申しました…。お許しを…オルディス様」
ひざまづく影達。定まらない輪郭でも、恐怖に震えている事はすぐ見て取れる。
その巨大な瘴気=オルディスは、睨みの眼力だけで、影の半身を消し飛ばしていた。
  『構わん…済んだことだ…』
上半身を失った影が、爬虫類の舌のように飛んできた触手に絡み取られ、オルディスの方向に引き寄せられていく。
それに続く耳障りな音…広い部屋を支配する不気味な租借音。
  『さて…バゼルは如何なる働きをすることか…』



  「やーっと来たわねぇー」 
  「紗由璃が遅刻なんて何かあったの?」
映画館の前で他の友達と合流する。
時間も押していることだしと、中に入ろうとする一行だが、唯一人振り返る紗由璃。
  「何なんだろう…あの人」

映画館の屋根の真ん中…そこに異変は現れた。
いつぞ成光山の神社で起こったような光景が、再びそこで巻き起こっていたのだ。
一つ相違点…光の粒子ではなく、光を跳ね返すことのない黒い粒子ではあるが。
或いは、俗に言う優れた霊感を持っている人間であれば気づいたかもしれない。
だが、多くの人はそれに気づく様子もない。
その場に居た唯一人、紗由璃を除いては…。
紗由璃は、黒いヘドロが肌を掠めるような”嫌な感覚”に気がつき、映画館の上を見上げる。
  「何やってんの?紗由璃」
誰も見えないソレは、屋根の上の空間に影を浮かべたような奇妙な存在だった。
  「何…アレ…」
紗由璃の友人が見上げてもそこには何も無い。
  「真昼間から何か見えるワケぇ?」
時々、勘が優れていると言われる者が居るが、彼女達の間でも日頃、紗由璃はその類として認識されている。
だが、紗由璃当人にしてみれば、視認できるほどの嫌な感覚は初めてだった。
人型に似た黒いモノ。顎の輪郭すらはっきりしないのに、その視線は読み取れた。
その視線は自分達の遥か後方の…
  「あれ…?さっきの人じゃない?」
横断歩道の真ん中で紗由璃とぶつかった青年がそこに居る。
例の影に誰も気付かず往来する人込みの中、その青年もまた、険しい表情で影を凝視していた。
  「早速現れたか…」
黒い影を睨み付ける青年。それに対して影は、手の平に、コレもまた黒い玉のような塊を作る。
何でもない街並みの風景の中、その青年と影の間の空間だけ、一触即発の緊迫した空気が流れる。
  「何なの…?さっきといい変なやつ…」
緊迫した空気に気付く者も少ない。
精々、青年を奇異の目で見ながら通り過ぎるくらい。
そんな緊迫した空気を破ったのは影の方、厳密には影が呼び出した魔物達だった。
2本足で立つワニと例えるのが適当だろうか、成人より一回り大きい身体を持つ魔物が3体、青年を取り囲むように現れた。
こちらは影とは違い一般人にも視認できるようで、魔物が降り立った途端、街中は騒然とする。
珍しいモノに足を止める者が殆どだが、さすがに近い者は脱兎の勢いで距離を取る。
  「できれば人が大勢いる場所で乱闘は避けたい…が…」
魔物達に囲まれた当の青年は表情を変えず魔物達にも睨みを効かせる。
  「何あれ…何かの撮影?」
  「早く逃げないと!」
ついつい足を止める友人達、一人事態の緊迫を感じ取っていた紗由璃は、皆に促して手を引く。
  「ちょ…ちょっとぉ!?」
バランスを崩しそうになり、千鳥足でその場を離れ…その直後、金属が重くぶつかり合うような轟音が響く。
それは正に、魔物が青年に襲い掛かっていた証拠だった。
背後から青年を襲う筈が、見事に避けられてしまい、本来青年の体を捕らえる筈だった大顎が派手にガードレールに激突していたのだ。
鉄製のガードレールは、紙か何かのように大きく捻じ曲がってしまい、派手に突っ込んで動きが鈍っている間に、上から降ってくる青年の踵落としを脳天に食らう。
その突然の戦闘に、今度こそソレを見ていた街の人々は一気に危機感が爆発し、騒然としながら方々へ逃げていく。
その一方で、青年の踵の型でも取ったように脳天の凹んだ魔物は、それっきり動きが止まり、無数の光の粒子に飛び散って消滅してしまう。
 「ここでお前達の相手をしている暇はない!さっきの悪魔はどこへ行った…?」
一瞬、映画館の屋根を見上げ、既に飛び去っているコトを確認する。
気配を追うと、ソレは、建物の屋根や屋上を跳ね回りながら徐々に距離を置いていく。
  「待て!」
後を追おうとするも、立ち塞がる残りの魔物達。
青年はその2つの異形を前に怯みもせず、声を張り上げる。
  「来い!ソール!」
青年の声に応え、虚空を裂く紺色の影はすれ違い様に、文字通り魔物達を胴から真っ二つに切り裂いてしまう。
断末魔はおろか、敗北したことさえ気付かない表情のまま2体の魔物も光の粒子になって散ってしまう。
ソールと呼ばれた紺色の影…1羽のツバメは、先程の影を追う青年の横につき、一緒に影の後を追う。



紗由璃達は、先程の騒ぎで騒然とする街並みの中を駆け抜けていく。
  「まったく…紗由璃の感は…はぁ…予知能力ですかい」
相当走ったのだろう、皆息が切れ切れになっている。
  「別にそういうのじゃ…!?」
  「うわっ!急に止まらないでよ!!」
一行の前を走っていた紗由璃が突然足を止める。
やはり紗由璃にしか見えないのだが、先程映画館に居た影が追って来たのか、目の前に居た。
  「クク…コイツで十分か…」
影は紗由璃達を全く気にも留めていない。
寧ろ興味を示したのは目の前に放置駐車してある車だった。
手の平に黒い闇の塊を作りだす。
ソレもまた実体を持たない、その空間だけ光も通さない真っ黒な空間が現れたような塊。
ソレを車に放り込み、ボンネットの鉄板から吸い込まれるように入っていく。
  「あなたは…何なんですか…?」
恐る恐る声に出す紗由璃。
影の見えない紗由璃の友人達は、一体誰に言っているのか…と、何もない空間と紗由璃を見て首を傾げるばかり。
  「あー…時々いるよなぁ、お前みたいな俺達が見える人間がよぉ」
振り返るどころか微動だにする様子もない影。
寧ろその直後に訪れた、突然の衝撃波こそが、紗由璃に対する影の意見だった。
空気の壁が衝突してくるような、強烈な衝撃波が紗由璃達を襲う。
  「「「「キャア!?」」」」」
強烈な衝撃波に数メートル吹き飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられてしまう。
背中から襲う重い痛みが走り、小さく呻く紗由璃。
他の3人は意識もない。
掠れる視線で何とか影の姿を捉えれば、振り返り、紗由璃に向けて手の平を向ける。
  「あのゼイドとやらの小手調べだけじゃ退屈で仕方ネェな、ちょっと木っ端微塵になってもらおうか」
今の衝撃波以上の攻撃が来る確信。
ぐっと目を閉じる紗由璃。
少なくとも今の人間には再現のしようがない、エネルギーが弾ける轟音。
  「っ!!」
もはや次の瞬間には生きていないだろう、だがその「次の瞬間」は何時まで経っても訪れない。
寧ろその次の瞬間の代わりに聞こえた音…否、声に、思わず瞳を開く。
  「ならサユリではなく、私に撃ったらどうだ?」
先程の対峙していた青年が、紗由璃と影の間に割って入っていた。
  「うるせぇよ、俺は弱い奴相手に本気出すようなメンドクサイ真似は嫌いなんでな…」
影が指を鳴らすと、黒い塊が放り込まれた車が軋むような音を立て始めていく。
  「ちょいと興が冷めちまったな…オマエがこいつの相手してやれ」
面倒くさそうに言い放ちながら影は消えていく。
恐らく去ったのだろうが、車の異音は一層大きくなり、ついには各部の鉄板が大きく拉げ、鋼の四肢を突き出し、巨大な人型の異形へと変化する。
元は車を構成する部品だっただろうシャフトやフレームが剥き出しで四肢を構成し、外装の鉄板が破れた衣服のように身体に張り付いたような姿を持つ巨人は、かれこれ14・5メートルにはなるだろうか。
  「なんてコト…」
  「っぐぅ…桐絵…!綾菜!里美!」
青年が後ろの様子を伺うと、傷ついた身体を引きずりながら、倒れた友人達を起こそうとする紗由璃の姿がある。
  「サユリ!皆を連れて早く避難を!」
  「え…あなたはどうするんですか!?」
僅かながら、青年の口元に浮かぶ笑み。
  「このくらいなら何とでもして見せよう」
紗由璃にしてみれば、突然目の前に現れた謎の青年だが、何故か「大丈夫」と思うに十分な反応だった。
勿論、その安心感の正体に疑問を抱きつつ、ではあるが。
  (この人…一体…)
そんなやり取りをしている間に、車から変貌した鋼の怪物が、その巨椀を振り上げ今にも殴りかかろうとしていた。
  「街中で暴れるのは避けるべきだ…と言った筈だ」
怪物を睨み返すと、片手を怪物の腕に向かってかざし、最初に地上に現れた時のような光に包まれ始める。
一つ違うコトは、その無数の光の舞が徐々にその大きさを増している事だろう。
怪物は振り上げた腕をその光の中に振り下ろしていく。
  「グルルルル…グオ?」
その光の渦に軽く腕が沈んだ所で、鋼と鋼がぶつかる音を立てて腕は止まってしまった。
  「やはり憑依魔獣では言葉を理解できないか」
光の粒子を払い、現れたモノ。
鋼の棍棒のような腕を片手で受け止めたのは、全長15メートル程度のロボットだった。
先程の青年の髪と同じ紺色の装甲に身を包み、身の丈の半分を超える大型のビーム砲を背負いながらもスッキリとした体躯。
  「私はゼイド…お前達魔族の横暴を阻止するために来たっ!」
高らかに名乗りを上げ、いい終わるや受け止めていた腕を引き寄せて鳩尾に拳を叩き込む。
やや前のめりになった所を更に掌底で突き上げる。
今度は後ろに仰け反る怪物…バランスを崩してビルに激突する寸前、ゼイドは腕を再び掴み、高々と放り投げてしまう。
飛距離は数百メートルにもなり、そのまま怪物は海面に叩きつけられてしまう。
  「グギャアア」
怪物が海に沈んだ煽りで大きな波が防波堤を叩き、その手前…海岸沿いの道に着地し、背中のビーム砲を構える。
  「甘い!」
怪物の沈んだ海の中から、ゼイドに向けて放たれる怪光線。
不意打ちのつもりで放っただろう光線すら先読みしていたのだろう、ゼイドのビーム砲はそんな怪光線を相殺する。
  「グオオオオオ!!」
相殺した爆煙に身を隠して奇襲を試みる怪物。
だがそれさえも…
  「ふんっ!」
突進してくる怪物の顔面を蹴り付け、その醜悪な鋼の顔にゼイドの足裏が見事にめり込む。
更に回し蹴り追加。
怪物は奇襲のつもりが、あえなく再び海の中に沈められる結果となってしまった。
  「ハァァァ…ッ!」
大きく息を吐き拳を握り直すゼイド。
ソレと共に背中のビーム砲が再び怪物のいる方向を捕らえ、大きな光弾を打ち出す。
すぐさま飛び出し、光弾を追うゼイド。
  「邪な者よ…光の中へ還れ!グランショック!!」
ようやく立ち上がった怪物を待っていたのは目の前に迫る光弾。
その光弾が怪物を捕らえると共に、光弾の後ろから突き出される重い拳の突き。
相乗する2つの力についに怪物は耐え切れず、全身が光に包まれ、光の粒子を散らして消えていく。



程なくして目を覚ます紗由璃の友人達。
さすがに紗由璃に3人も抱えて移動できる力はなく、歩道の端のビルの壁に皆背中を預けるようにして寄せている。
一応救急車も呼びはしたが、突然のあの騒ぎで道が込んでいるのか、まだ現れる気配はない。
まだ身体に残る鈍痛に呻き声を上げはするが、大丈夫そうではある。
  「いったーい…何なのよさっきのは…」
  「桐絵!綾菜!里見!大丈夫…?」
  「何とかね…紗由璃も大丈夫?」
ようやく目を覚ました友人達と無事を確認し合う紗由璃達を、青年の姿に戻ったゼイドが遠くから眺める。
 ゼイド「サユリ、生きていたんだな…尤も今更会わせる顔などないが…」
目を伏せるゼイド。
その表情は安堵しつつも、どこか晴れない思いを抱えた複雑なものであった。
そのゼイドの気配を察して紗由璃は振り返るが、既にそこにゼイドの姿はない。
  「あの人…何なんだろう…」

 
 

 

 
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